ハッダ出土ストゥッコ女人供養者像
西アジアとインド、中央アジアを結ぶ東西の中継地、ガンダーラ。
現在のパキスタン北西部に位置するこの場所で、2世紀ごろに初めて石彫による仏像が造られました。
インド(紀元前6世紀)の十六大国(Wikipediaより/赤字は筆者補)
その後3世紀頃からローマの彫刻技術が伝わり、ストゥッコと呼ばれる漆喰による塑像が造られるようになります。
石灰と土を混ぜたものを型に入れて成形するストゥッコは、柔軟で細やかな表現を可能にしただけでなく、石彫よりも量産に向いたために仏教芸術の普及が一気に広まる契機ともなったとも言われています。
本作は3世紀〜5世紀頃に造られたストゥッコ製の供養者像です。
仏塔や祠堂、僧院などの仏教建造物を荘厳する彫刻の一部だったものと考えられます。
ストゥッコは軟質な素材の性質上、大多数に補修が見られ首や手など大きなダメージのあるものも多いですが、本作はとても良い状態であることが何より嬉しい点。
全体に補修はなく、保存状態も良好で細やかな表現もよく残っています。
ガンダーラ美術の最大の特徴は、ギリシャ・ローマ美術の影響が色濃い西方的な造形表現。
片膝を僅かに曲げ体を捻ったポーズ、全身を覆う古代ギリシアの装束ヒマティオンにも似た大衣、そして身体に沿った衣褶の表現からは、一見してその影響を見てとることができるでしょう。
彫りの深い顔立ちに、巻き髪を結い上げたエレガントなヘアスタイル、耳と首には存在感のあるアクセサリーを身につけ、どんなに華やかで美しい供養者であるか、想像が膨らみます。
果実のようなもの(葡萄?)を胸元に携えた手元の表現もとても柔和です。
西洋骨董の鑑定家として知られる市川清氏による識が付いています。
ハッダとは、現在のアフガニスタン東部、パキスタンにも近い場所にあった古代ガンダーラの仏教遺跡。
数万とも言われるストゥッコの優品が出土したことでも有名な場所です。
どの角度から見ても美しさにはっとさせられる像。
朝夕さまざまな光のもと、変化する表情を味わっていただきたい作品です。