鎌倉彫牡丹文香合
古代中国において、牡丹は「花王」と称され、以来富貴の象徴として様々な美術工芸品の装飾で盛んに使われてきました。
鎌倉彫においても牡丹文は圧倒的に多く、本作もまた、その伝統に則ったうちの一つです。
それは、鎌倉彫が中国の彫漆器の模造を出発点としているというルーツからも明らかでしょう。
この香合の見どころは何と言ってもこの華やかで大胆なデザインにあるのではないでしょうか。
蓋の中央に華麗な大輪の牡丹を配し、周辺から側面までは葉と茎でうずめています。
葉はぐるぐると巻いており、唐草文のようになっています。
サイズも幅8.5cmとすっぽりと手に収まる丁度いいもの。
鎌倉彫の香合は、寺院の什器として用いられたものと、茶道具用とありますが、今回のものは、この小ぶりなサイズからしても後者のものでしょう。
黒漆の上に鮮やかな朱漆を被せていますが、木胎であるがゆえの柔らかさ、親しみやすさも兼ね備えています。
木製ゆえ、経年によるスレ等ありますが、それも含めて味わい深い一品です。
仕覆は、燕脂地金モール、紐含め同系色でまとめました。
金モールが織り込まれていますが、時代を経て落ち着いています。