李朝堅手盃
李朝の堅手といえば一般に灰色がかった釉色を思い浮かべる方が多いはず。
磁器と陶器の特徴を併せ持ったような厚手の素地に、貫入が入り硬質な印象を受ける釉薬がかかった素朴な作行き。
それが多くの方が想像する堅手だろうと思います。
本作はそれとは幾分異なる特徴を持っています。
まず目を惹くのは全体的に温かみのある茶褐色。
高台を見ると土が露出しており、赤みを帯びた陶土を使っていることがわかります。
この土を素地に釉薬がかけらたことで、よく見る堅手とは一味異なるものになっているのです。
釉薬の調子も場所により様々で、赤みの強いところ、暗いところ、釉薬が厚くかかり青みを呈しているところと、表情に富んでいます。全体に入った細やかな貫入も魅力的です。
よく使われ、大切に手入れされてきた酒盃や徳利が、独特の艶やかさを放つことを骨董の世界では「育つ」と言います。
この酒盃も愛玩されてきたものだけが持っている艶を纏っており、前の所蔵者によって大切に使われていたことがしのばれます。
箱に書かれた銘は「紅葉」。
この酒盃の景色を的確に言い表してはいないでしょうか。
旧蔵者による銘と酒盃の色味に合わせ、仕覆は温かみのあるざっくりとした茜色の木綿地で仕立てました。
裏地には格子文様の裂を合わせ、ちらりと文様が見える洒落た仕立てです。
新たな所蔵者の元で、更に酒器として育っていくのが楽しみな酒盃です。