鎌倉彫水仙に菊文香箱
鎌倉彫には珍しい、箱形のものです。
その大きさから、香箱として用いられたものかと思われます。
蓋上面には中央に大きく開いた菊の花を一輪。それを囲む蕾、五分咲きの花々。
蓋と身の側面は、葉を茂らせ群生する水仙と瓜を互い違いに配します。
鎌倉彫とのいえば圧倒的に牡丹文が多い中で、それを使わずに3種の植物の意匠が使われているのは、とてもユニーク。それぞれの季節に今でも見ることができる自然風景を、うまく意匠に取り込んだ華やかな小箱です。
中国禅宗文化の影響を受け、唐物の彫漆器を仏師の手で写したことから始まる鎌倉彫。
室町時代の中国風が濃厚なものから徐々に大衆化が進み、茶湯文化にも取り入れられることで仏具のみならず香合や茶器、盆といったものも造られるようになりました。
この作品の日本的な風情とでも言える柔和な趣は、禅宗の影響下で忠実な唐物写を作っていた頃とはやや異なる感性を反映させたものと思われます。
角に少しだけ経年の剥げを朱漆で補修した箇所がありますが、その他ひび割れ等がなく、非常に良いコンディションです。
仕覆、桐箱が付属します。