富本憲吉 家形箸置五個組
₩1,663,000
思わず目を細めてしまうような、愛らしい小さな家形の箸置き。近代陶芸の巨匠、富本憲吉の作品です。
富本憲吉といえば草花を抽象化した瀟洒な図案や色絵で右に出る者はいない陶芸家。そんなアイコニックな作品と並んで、好んでモチーフとしていたのが「家」でした。
富本が好んだ家屋のモチーフがどこからきたかといえば、それはやはり李朝陶器からでしょう。日本民藝館等にも所蔵されている家形の水滴は、市場では見つけることすら困難なコレクター垂涎の的です。
柳宗悦や浅川伯教などとも親交のあった富本は、1922年に韓国へ旅に出ます。滞在中は李王家博物館に連日通って多くのスケッチを残しており、深く傾倒していたそう。家形の水滴は、富本自身も作品化しているほか、絵画にもしばしば登場しており特に気に入っていたことが窺われます。
特徴的な弓形のカーブを描く屋根からは、それが韓国の伝統家屋「韓屋」をかたどったものであることを想起させますが、日本の蔵のようにも見えます。とにかく並べた姿が抜群に愛らしく、李朝陶器にそのルーツを持ちつつも富本らしさが存分に発揮された作品です。幅2㎝に満たない小さな家に、窓枠や屋根が細やかに絵付されています。
参考となる同手の作品として、1937年制作の家形筆架(国立工芸館蔵)があります。こちらは筆架として作られたようですが、本作と殆ど同じ大きさです。
(出典:『生誕120年 富本憲吉展』毎日新聞社, 2006-2007)
5個それぞれの底部に「富」の字が刻まれています。署名のデザインは年代ごとに異なりますが、本作の署名は1937年のものと符合します。先にあげた国立工芸館所蔵作も1937年作ですので、ちょうど同じ年代のものとわかります。
5個のうちの1つに、1㎜にも満たない極小のアタリがあります。場所からして元々の窯傷のようにも見えますが、その部分だけ釉薬がかかっていないため念のために記載いたします。いずれにしても全体の雰囲気を損なうようなダメージでは全くありません。
本作には、富本の助手を務めていた陶芸家の藤本能道による識箱が付属します。
近代陶芸は、実際には使われず箱にしまったままになってしまうことが殆どですが、ぜひ使って楽しんで頂きたい作品です。
[参考作品]
富本憲吉については以下の作品ページでもご紹介していますのでご覧ください。