呉州赤絵魁鉢
呉州赤絵とは、明時代末から清時代初めに中国福建省の漳州窯で作られた輸出用の色絵磁器のこと。
漳州窯では、景徳鎮窯の製品を模した青花磁器や五彩磁器を多くつくり、日本や東南アジア、西アジア、ヨーロッパなど、世界中に広く輸出をしていました。
(出典:https://www.moco.or.jp/intro/map/ 大阪東洋陶磁美術館)
最大の特徴は、奔放で伸びやかな絵付。赤絵ならではの華やかな彩りと自由な表現の面白みは、日本の茶人にとりわけ好まれ、珍重されてきました。「呉州赤絵」という呼称は日本特有のもの。独自の呼称としてブランド化するほど、多くの人々が呉須赤絵の魅力に親しんできたのです。
桃山時代から江戸時代の初めに日本に多くもたらされた呉州赤絵のうちでも、最も高く評価された器種のひとつが見込み中央に闊達な筆遣いで「魁」の一字が書かれた作。
通称「魁手(さきがけで)」と呼ばれるこれらの鉢は、玉取り獅子の文様と並んで懐石具、そして菓子器として茶事の中で特別に扱われ、愛好されてきました。
よく見ると「魁」の一画目の「、」がないことに気付かれたでしょうか。
「魁」は、第一、頭目、科挙での首席などを意味します。そこに一画目を「取る」の意味をさらに掛け合わせることで、縁起担ぎをしているのです。この吉祥性の高さとユーモアが多くの人々に好まれた理由のひとつかもしれません。
魁字の内側には、草花の文様、外側は抽象化された鳥と菊のような文様が赤絵と僅かな緑釉を用いて描かれています。
素地は、失透性の強い白釉。呉州赤絵の白磁は殆どが灰色から灰白色の発色に仕上がっています。中にはほとんど灰色を呈しているものも少なくない中で、灰色が抑えられた本作は出来の良いといえるでしょう。白の発色は明るく、赤絵と染付による文様がよく映えています。
縁に3㎝程のごく薄い磁貫が見られます。写真では映らないほどの薄いもので、裏側までは通っておりませんので、傷とはみなしませんが念のために記載いたします。
古くから伝わったことがわかる、古格のある桐箱に納まっています。見出しには「上呉州赤絵」の文字。
素朴で力強い造形が特徴の呉州赤絵。現在の市場価格はそれほど高くはありませんが、だからこそ魅力あるものを見つけることができるのも嬉しい点。料理の器、そして茶事の中でこそ輝きます。