李朝井戸釉徳利 黒田辰秋旧蔵
手なじみがとても良い井戸徳利。きっと沢山の数寄者を酔わせてきたことでしょう。
それが故のこの肌味ですね。井戸特有の細かな貫入が覆っています。
黒田辰秋の識箱で、 ”お阿づけ” と箱書きがあります。
「お預け徳利」とは、茶懐石の際に亭主がゆっくりお酒を楽しんでもらうためにお客様の席中に預けおく徳利のことです。
亭主が席を外している際も代役となってお客様の前に居続ける徳利なので、亭主自慢の品が選出されるのだそう。この徳利も辰秋の選ばれし愛玩品ということでしょうか。
注ぎ口も丁度良い細さにつくられており、お酒を注ぐときの「トクトク」と心地よい音は耳まで楽しませてくれる徳利です。高台は褐色の胎土が現れています。
酒器好きの方にはぜひ一度手に取って頂きたい一品です。
無傷で状態は大変良好です。
仕覆裂は緑地丹波布片身替で、幕末~明治時代の頃のものと思われます。
片身替わりとは着物等に用いられる、中心から左右の地質、染織、文様の異なった仕立てをしたもののことです。本作では丹波布と緑色の無地を片身替わりで仕立てています。
丹波布は木綿と繭屑から紡いだ糸からなる綿織物で、栗の皮などの天然染料で染められ、何度も工程を繰り返してつくられています。
柳宗悦は丹波布を「静かで渋い布」と評し、その素朴な美しさを愛したといいます。