コプト裂 鳥と幾何学文
愛らしい鳥と幾何学文様のコプト裂をご紹介します。
コプト裂とは、エジプトに住むコプト人が創始、発達させた織物。
コプト裂の年代は前期(3世紀から5世紀半ば)、中期(5-8世紀)、後期(8-12世紀)の3つに区分することができ、中期にあたる5-8世紀が最盛期と言われています。
今回の裂は、鮮やかな朱地の上に、黒く縁取られた幾何学模様がジグザグ状に配されています。
その周囲には口を開けた鳥らしき動物、そして周囲には小花や小鳥たち。
動物たちはカリカチュア風に表されており、二頭身の愛らしいその姿に思わず目を細めてしまいます。
染色家の皆川泰蔵氏による「コプト裂 古代エジプトの染織」という文献に、類品が掲載されています。
こちらの裂には人面鳥が表されており、今回の裂と文様は少し異なりますが、類品であることは間違いありません。
人面鳥文綴織全体/部分拡大図
(出典: 皆川泰蔵編 鈴木まどか解説『コプト裂 古代エジプトの染織 2』1984年、芸艸堂)
皆川氏によると、この文様は7世紀頃のササン朝ペルシア様式のコプト裂と共通しているといいます。
中期が色鮮やかなものが多いのに対して、イスラム支配下の後期になると、偶像崇拝が禁止されているため幾何学文が多くなり、色彩も落ち着いてきます。
今回の裂の鮮やかな色彩やカリカチュア風な文様は中期の特徴でもあります。
ただし、皆川氏は続けて、類似の裂が9-10世紀のものと推定されるアラビア語を織り出した布地とともに出土しているため、このモチーフのものは9世紀または10世紀に制作されたとも考えられると言っているため、その可能性も捨てきれません。
ササン朝ペルシアは、3世紀から7世紀まで、イランから始まり、西アジア、中央アジアまで広大な地域を支配した古代オリエントの覇者です。
シルクロードを経て正倉院にもササン朝のものが多く伝わっているので、ご存知の方も多いかもしれません。
615年にはエジプト征服が始まり、621年にはエジプト全土を占領するようになります。
コプト裂は、初期にはギリシア、ローマ神話などのヘレニズム的な表現、東ローマ帝国支配下の中期にはキリスト教、後期はササン朝ペルシアや、その後はイスラムといったように、多彩な表現を取り込んで文様としてきたのです。
今から1000年以上前に作られた本作。
当時のエジプト周辺の人々の文様や色彩感覚がいかに優れていたかがわかります。
発掘品なので、多少のホツレや汚れはありますが、文様部分は綺麗に残っており、鑑賞の妨げにはなりません。
額装してあるため、壁に飾ってお楽しみいただけます。
また、額の裏面は、古い釘で留められており、手にお取りになる際はご注意をお願いします。
見ているだけでたのしい、そんなコプト裂です。
愛らしくどこかユーモラスな文様はこの裂ならではの魅力。
コプト裂の素朴なフォルムと自由な表現は今のわれわれの心にも響くのではないでしょうか。
※函は付属しておりません。
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[参考文献]
皆川泰蔵編 鈴木まどか解説『コプト裂 古代エジプトの染織 2』1984年、芸艸堂