神護寺経帙蝶形金具香合
京都・神護寺に伝わる、「神護寺経」を収めた経帙の本体や紐端に取り付けられた蝶型の金銅製の金具。
その金具をいつの時代かの数寄者によって香合に仕立てられた一品です。
この金具が取り付けられていたのは、鳥羽法皇が発願し、息子である後白河法皇の時代に完成した「神護寺経」を保護するための経帙。
経帙とは、この重要な経巻をくるりと巻いて保護するためのもので、神護寺経約10巻分を一包みとしていたそうです。
糸、紐、金具他、細部まで趣向が凝らされており、当時の深い信仰心を感じます。
さて、この蝶型の金具、身と羽の端はふくらみをもたせ、羽や触覚などは鏨(たがね)で丁寧に彫られています。
一彫り、一彫りが連なって優美な線となり、羽や身が表現されています。
まるで平安時代の工人の息遣いが伝わってくるかのようです。
この深い精神性を湛えた蝶金具は多くの数寄者を魅了し、いつの時代においても愛玩されてきました。
その蝶金具を香合として仕立てられたのが今回の一品。
茶会において小さいながらも重要な役割をもつ香合。
木製なので風炉の時期に使われたのでしょうか。
この金具を香合に仕立てる旧蔵者の趣味の良さがうかがえます。
コンディションも良好です。
3つの小さな穴は、当時経帙に取り付けられていた際の当時のものです。
仕覆は、金茶地草花文銀襴で仕立てました。
金茶の地に、銀糸によって草花文が織り出されています。
裏地と紐も同色で仕立て、落ち着き、気品のある印象です。
平安の優雅な香りを今に伝える魅惑の香合。ぜひお茶会で、お手元で、ご愛玩ください。