藍九谷市松文角向付
₩2,401,000
四角い画面を白磁と市松文で分割した潔いデザイン。古さを感じさせないために“現代的”という言葉で評されますが、江戸期の日本ならではの「粋」をこれほど端的に表したものは他にありません。
磁器は江戸時代から国内生産が始まった最新のもので、器のなかでは陶器より上の高級品と位置付けられました。洗練された品でなければ、眼の肥えた都市の富裕層を満足させることはできません。こうした需要に応えるための創意工夫が、意匠と品質の両面で古びることのない最高のものが生まれた所以なのでしょう。
濃いめの染付で輪郭をとった市松文が、冴え冴えとした白磁にくっきりと浮かび上がっています。単純なようでいて、ちょっとのことで印象がガラリと変化するのが市松文。きっちりと引かれた輪郭線の内側を塗り込めた染付のムラ、わずかに素地を透かす塩梅が野暮ったさがなく涼やかです。
見込みの市松文に対して、横は三角を連ねた模様が。自然な目線の角度でこの皿を見た時に、この三角模様がもしなければ、どんなに平板で面白みのない皿になるかは想像に難くありません。
また形に関しても角皿の場合はどうしても形に歪みが出てしまいますが、本作は歪みは最小限に抑えられており、角や縁のエッジも際立っています。
数奇者として知られた俳優の神山繁氏が生前に出版した『喰いしん坊のうつわ』をご存じでしょうか。
青山二郎、小林秀雄、白洲正子といった人々と交流した神山さんが、普段使いした品々を写真と文章を交えて紹介するこの本は、2000年台に入ってから出版された比較的新しい骨董随想集です。染付白磁、土もの、新作工芸と掲載品は幅広いながら、通底する洒脱さと品格からは氏の確かな眼を窺い知ることができ、現代の骨董愛好家のバイブルとなっています。
その中のひとつとして、本作と同種で形違いのものが紹介されています。
(『喰いしん坊のうつわ』湯川書房, 2006年)
数多ある藍九谷の意匠の中でも、時代を超えて新鮮な感動を与えてくれるものはごく僅か。江戸時代当時から人気があったのでしょうが、現在の市場でもそう多くは出会うことのできない品です。
味の良い木地盆でも、現代のすっきりとした漆の折敷でも、相性良く馴染みます。