柿右衛門白磁陽刻梅文蓋茶碗
まず目に止まるのは、その立ち姿。
高台から、腰を膨らませずにすっと立ち上がった身、また同じく僅に膨らんだ傘形の蓋を合わせた凛としたフォルムは特徴的です。
密度の高い滑らかな土を薄く引き上げた器壁に、陽刻の技法によって梅の文様が彫り込まれています。
柿右衛門といえば、濁手と呼ばれる乳白の白磁に赤絵を描いたものが代表的。この蓋碗のように、絵付のない無地に陽刻で文様が施されているものは非常に珍しい作例です。
くっきりとキャストの良い陽刻の梅模様。八重の梅や横向きの花に蕾も混ざり、リズム良く軽やかに舞っています。冴え冴えとした白磁のなかに、小さな梅の花が散らされた可憐さは、もはや説明を必要としません。
もしこれが赤絵の絵付だったら…?と想像すると幾分可愛らしすぎてしまう印象ですが、陽刻文様の場合は、あくまで主役は白磁。陰影により移ろう文様が儚げでもあります。
なんと言っても柿右衛門特有の質の高い白磁を堪能できるのは、無地だからこそ。光沢の強すぎない、しっとりとした白磁の色が料理にも溶け込みつつも、品格のある姿で上手に引き立ててくれそうです。
骨董に蓋碗は数あれど、これぞ別格と太鼓判を押したい逸品です。